・・・ペトリュスを引き継ぐことは夢にも思っていませんでした。権利意識はまったくなかったので、その話が出た時には本当に驚きました。
・・・土壌もブドウのブレンドも違いますが、素晴らしいワインを追い求めるという哲学は同じですし、父の英知があることを幸運に感じています。 多少怖気ついたのは確かですが、ワインを造っている時は、ペトリュスのボトルが何を意味しているのかを考えることはありませんし、そのボトルに何を入れるかなんて、なおさら考えることはありません。技術的な判断をする時には、多少距離を持つことが必要です。もちろん、“ペトリュスに値するワイン”を造ることにプレッシャーはありますが、威圧されずに、明瞭に考える必要があるのです。ブドウ畑と樽とずっと関わらなければ、何が起こっているのかを見逃してしまいます。
・・・私が最初にジャン=ピエール・ムエックスに採用された時には、ペトリュスのボトルを見たことも、ましてや飲んだこともありませんでした。無知でしたが、仕事が始まったら、それをとことんやり始めたのです。働いているワイナリーの名前を忘れてしまう代わりに、そのワイナリーと会話を始めているものです。“これはペトリュス、これはトロタノワ”と考えながらワインを造ることはできません。ブドウが伝えてくれることに集中するのです。ブドウの方から、“ありがとう”とか、“どうして、今そんなことをするの?”とかを。
・・・引退後のことをいろいろ計画していましたが、相変わらず時間はまったくないもので、しようと思っていたことは何一つできていません。今までとなんら変わりなくペトリュスに情熱を持っていますが、今は、それを息子と分かち合うことができるようになりました。オリヴィエは自宅に住んでいるので、たとえ、週に一度しかペトリュスに行かなくても、朝食を食べながらブドウ栽培に関する哲学や、偉大なワインの在り方について話し合っています。しかし、ワイン造りというものは絶対的な命令ではなく、どちらかというと概念なのです。ペトリュスは私の前からありましたし、オリヴィエの後もここに残ります。我々の仕事は観察し、このブドウ畑で絶対必要なものを維持することなのです。
・・・粘土土壌のメルローは、砂利土壌のカベルネ・ソーヴィニヨンのような古典を造り上げることができます。
・・・台木は進化しているので、我々は毎年100本の樹をマッサル・セレクションしており、そのうちの3分の2を使用しています。最良の樹を使っていて、過去と直接繋がっています。
・・・これは伝統を守るという考えの下からきていて、我々にとってとても重要なことです。そこには現代の哲学はありませんが、我々に与えられた価値観があるのです。
・・・伝統という言葉は、たびたび誤解される傾向にあります。これは、単に伝統ということを意味しているのではなく、変える必要のあるものと、維持しなくてはならないものを見るということを意味しているのです。
・・・彼ら(ムエックス兄弟)は、今後の相続を容易にするため、2つを分ける良いタイミングだと判断したようです。二人とも60代に入り、子供たちのことを考え始めたようです。
・・・そのスピードは、本当に素晴らしかったです。
・・・選別におけるすべてのリスクを回避してくれるのです。オリヴィエはブドウ畑においても役に立つ近代技術があることを教えてくれました。45年も経つと、何でもある特定の方法でやることに慣れてしまうものです。でも、若いと意欲があり、何に対しても疑問を投げかけます。ここに息子がいるおかげで、私も再び若返ることができました。 ・・・ペトリュスには独特の風格、香り、タンニンの質があります。定量化することも測定することもできません。度を過ぎた果実味やエキスといったどこにでもあるものを求めていません。最高のワインはどこから来ているのかを表現しています。そして、父はそれを可能にするために必要な忍耐と努力を教えてくれました。そして、何より父はワイン造りに必要なワイン造りの工程を楽しむことを教えてくれました。