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故ジャック・レイノーはシャトーヌフ・デュ・パプの鬼才とうたわれましたが、トゥーレーヌにおいて鬼才と呼べるのは、このアンリ・マリオネ以外にはいないでしょう。
既成観念に囚われない自由な発想、そして旺盛なチャレンジ精神が、アンリ・マリオネのワイン造りの根幹に流れています。栽培においても醸造においても、独創的かつ革新的な方法でワイン造りをしているアンリ・マリオネのキュヴェは、その1つ1つがどれも他の造り手のワインには見られない極めて個性的な特徴を備えており、ワインの新境地を発見させてくれます。
ワインの新たな可能性を追求し続ける彼に触発され、故ディディエ・ダグノー、ドメーヌ・ユエ、フィリップ・シャルロパン、クリストフ・コルディエ、ミッシェル・シャプティエなど、フランス各地で実験的に接ぎ木しないブドウ樹の栽培に着手した造り手が数多くいます。つまり、マリオネはこれら超一流ドメーヌにも多大な影響を与えているパイオニアなのです。
また、著名人にもファンが多く、アラン・ドロン、カトリーヌ・ドゥヌーヴ、エマニュエル・ベアールといった世界的な俳優を筆頭に、エリザベス女王や仏首相までもがマリオネのワインを堪能しています。2009年11月には、フランスのワイン生産者の最高峰の団体で、世界的な名声と豊かな見識を持つわずか40人の会員で構成される名誉組織、アカデミー・デュ・ヴァン・ド・フランス/Academie du Vin de France(フランス・ワイン学士院)の会員に全会一致で選出され、今や名実ともにフランス・ワイン界最高のワイン職人に認知されました。
現在、ボーヌの醸造学校を卒業した後、カリフォルニアやオーストラリア、そしてブルゴーニュで研鑽を積んだ息子のジャン=セバスティアンが、ドメーヌを運営しています。
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畑の土壌はペリュシュ/Perrucheと呼ばれる火打石混じりの粘土質で、多少のケイ素や小石を含んでいます。ドメーヌはトゥーレーヌ地方の最東端に位置するため、他のトゥーレーヌの畑に比べてソーヴィニヨンとガメィに好都合な大陸性の気候をより多く享受しています。本来、ソーヴィニヨンとガメィは大陸性の品種であるため、海洋性気候の影響が少なく、大陸性気候の影響が大きい内陸の土壌で真価を発揮します。この点で、ドメーヌ・ド・ラ・シャルモワーズはソーヴィニヨンとガメィの栽培にうってつけのミクロ・クリマにあるのです。しかし、サンセールやボージョレに比べると、夏は涼しく、冬は穏やかです。また、北のロワール河と南のシェール河のあいだで最も高い地点に位置するため、並外れたブドウの熟成が可能になり、春の霜の被害もまったく受けることがありません。多くの栽培家たちが自身の畑が破滅するのを目の当たりにした壊滅的な1956ヴィンテージでさえも、マリオネのドメーヌは被害を免れたほどです。
ドメーヌのブドウ樹は、(接ぎ木していない区画を除き)大部分が1967-1978年に植樹されたものですが、それ以来、ブドウ樹はほとんど引き抜かれていません。ブドウ樹の取り替えに際しては、穂木を残し、台木のみを取り替えて、常に最上のヴィエイユ・ヴィーニュ(古樹)が残るようにしています。ドメーヌの畑の畝幅は3メートルと非常に広く、植樹比率はそれほど高くありません。これは、葉に広い表面積を得ることができるよう、ブドウ樹を高い位置に固定して、光合成がよりよく進むようにしているのです。また、ドメーヌでは畑のブドウ樹の状態を最重要視しています。化学物質の使用をできる限り最大限に避け、リュット・レゾネの原則に則ってブドウを栽培しています。除菌剤、除ダニ剤は20年来使用しておらず、セクシャル・トラップの技術を利用して、ブドウ畑の生態環境により適った栽培方法を採用しています。収量を低く抑えるために、摘芽、グリーン・ハーヴェストも行います。ブドウの色素の発達を最適なものにし、熟度を高くするための摘葉も行われています。
ブドウの房はすべて手摘みで収穫され、その場で厳格に選別されます。選別されたブドウは、潰れて酸化するのを回避するため底の浅い籠に入れられ、すぐに醸造所に運ばれます。ドメーヌの畑の畝幅が3メートルもあるため、収穫したブドウを入れた籠を収集するためのトラクターが畝の間に入って来ることができます。このため、収穫したブドウをより早く醸造所に運び込むことができるのです。
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アンリ・アリオネがガメィの醸造に採用している炭酸ガス浸漬法(マセラシオン・カルボニック)は、ボージョレで行われている方法(セミ・カルボニック/Semi-Carbonique)とは異なります。ボージョレでは、発酵中にポンピング・オ−バーを行い、果皮が破れて果汁が流出するため、多くの果汁が発生し、マセラシオンは液体中で行われます。しかし、ドメーヌ・ド・ラ・シャルモワーズの炭酸ガス浸漬法では、マセラシオンは気相(気体状態)で行われています。
これは、まずタンクを二酸化炭素で充満させておいて、その後、ブドウで完全にタンクを満たす方法です。ポンピング・オーバーを行わないため、果皮が破れて果汁が流出することはなく、発酵はそれぞれの果粒の中で行われます(細胞内発酵)。つまり、マセラシオンはガス(気相)の中で行われるわけです。炭酸ガス浸漬法においては、液体が少なければ少ないほど果粒からより多くのものを引き出すことができるため、ワインはよりフルーティーで色が濃く、アロマティックなものになります。事実、パストゥールは応用には至りませんでしたが、それを仮定していました。また、この技術は二酸化硫黄を添加することなく発酵を行うことができるという利点があります。
唯一行われるのは、ブドウを温めることです。ブドウの重さによって、ブドウが少量の液体を発生するため、この液体を25-30度の熱交換機の中で温めて、タンクの下部に再注入します。こうすることによって、熱が拡散し、発酵が問題なく開始されます。発酵は約6日間続き、後に(50%のブドウはまだ手つかず)ブドウをタンクから出し、空気圧圧搾機にかけます。再びタンクの中に入れて通常の発酵を終了し、続いてマロラクティック発酵が2-3週間かけて行われます。発酵終了後、ワインは澱引きされ、瓶詰めされるまでタンクで熟成されます。
この醸造方法は経済的にリスクがあります。なぜなら、収穫が手摘み(機械よりも3倍もコストがかかる)であること、それから、とりわけ発酵が二酸化硫黄の添加もなく、いかなる保護もなく、完全に自然なものであるからです。特に、わずか数時間で揮発酸量が急激に上昇し、酢酸が発生する危険性があります。しかも、1つのタンクから別のタンクに感染する可能性が高いのです。揮発酸量が上昇した場合には、できるだけ早く澱引きするか、二酸化硫黄を添加することによって危険を回避することができますが、揮発酸量は少し上昇すると下降することはほとんどないため、この方法を実践するには、非常に卓越した技術が要求されます。ボージョレの多くの造り手たちが、このポンピング・オーバーをしないマセラシオン・カルボニック技術を使うことをやめてしまったのは、揮発酸の上昇という問題があったからなのです。
しかし、すでに説明したように、この炭酸ガス浸漬法(マセラシオン・カルボニック)は、ボージョレで行われている方法(セミ・カルボニック)と比較した場合、果粒からより多くのものを引き出せるため、ワインはよりフルーティーで色が濃く、そしてアロマティックなものとなり、二酸化硫黄も添加することなく発酵を行うことができます。
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